一途な小説家の初恋独占契約

――日本は、僕のもう一つの祖国です。
本当は、自分で訳せたらいいんだけど、僕がするとどうしてもしっくりこないんだ。
ベストな言葉じゃないって分かる。
だって、ベストな言葉は、それを見た瞬間に分かるんだ。
バシッとはまるんだよ。
ああ、これが僕の言いたかったことだって。



――日本語は、概ね理解できます。
そう、『概ね』って言葉を知っているくらいには。
ただ、小説を書くまでには至らない。
でも、僕の書いた気持ちを、そのまま掬い取ってくれる人がいるんだ。
きっと、魂が同じなんだと思う。



――僕が小説家になったのは、読んでもらいたい人がいたから。
恋愛小説を選んだ理由は、彼女が好んで読んでいたから。
もし、彼女がハードボイルドを読んでいたらハードボイルドを、ホラー小説を読んでいたらホラー小説を書いていたのかもしれない。



――彼女と言葉が交わせなかったら、僕は作家になれなかった。
言葉は、彼女のために出てくるんだ。
彼女がいなくなったら？　考えたくもないけど、きっともう何も書けないよ。
どうやって生きていいか分からない。
だって、ずっと僕は、彼女に僕の言葉を読んでもらうためだけに生きてきたんだから。
それより前のことなんて思い出せない。
思い出せほど、昔のことなんだよ。



――僕は、ずっと恋してる。
僕の書くものに込められた『愛しい』という感情は、たった一人に向けられてるんだ。
いつだってずっと。
彼女のことを思えば、言葉はいくらだって迸る。



――僕の書いたものは、全てその人に向けられているんだ。
恋する気持ちも、愛する気持ちも、切なさも哀しさも全部、彼女が教えてくれたものなんだ。



――もっと……もっと書きたい。
書きたいものは、いくらでもあるんだ。
もっともっと読んでほしい。