一途な小説家の初恋独占契約
首に回そうとした手が、うなじに届かないのに気づいて、ハッとした。

背が高くなってる……! 中学生のときは、私と同じくらいの背だったのに。

身体を離そうと、ジョーの肩に手をついて、その厚さと硬さにギョッとした。
前に会ったときは、私よりも華奢だったのに!
慌てた拍子にたたらを踏む。

私の腰を、さも細いもののようにジョーは軽々と抱きとめ、愛しいものでも見るように、柔らかく微笑んでみせた。

顔のパーツも表情も声も変わっていないけれど、逞しい体とすっかり大人のような余裕は、私の知らないものだ。

「え……本当にジョー?」

私が小さく呟くのと、突然の再会劇を呆然と見守っていた周囲の人が騒がしくなるのは同時だった。

あ……会社で、仕事中に呼び出されたのに、いきなりジョーに抱きついちゃうなんて……。

赤くなった頬を両手で隠したところで、事態は変わらない。

慌てる私に動じることもなく、ピンヒールを鳴らしながらツカツカと近づいてきたのは、第二編集部の寺下部長だった。

アシンメトリのショートカットが似合う小さな頭は、清谷書房きっての才女と言われている。
体にフィットした柔らかそうなスーツを着こなしながら、ヒット作品を何作も手がけた敏腕の編集者だ。

清谷書房としては、最速レベルで部長に上り詰めた彼女は、まだ40代前半。
清谷書房初の女性役員になるのではないかと、もっぱらの噂だった。

「どうやら、窪田さんがラザフォード先生と知り合いというのは、本当だったようね?」
「ラザフォード先生……?」

私の目の前にいるジョーは、ジョゼフ・早見・オリヴェイラだ。

困惑する私を、ジョーはしっかりと見返した。

「さっきの質問に答えるよ。ここへは、仕事をしに来た。僕は、ジョー・ラザフォードという名で、小説を書いている」
「えっ!? ジョー・ラザフォードって、女性じゃなかったの?」

私の疑問に、寺下部長が答えてくれる。
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