一途な小説家の初恋独占契約
夕焼けも見えずに暗くなった海岸は、見渡す限りひと気がなかった。

空も海も砂も灰色だった。

……いない?
きっと、ここにいると思ったのに。
ここにいなかったら、一体どこへ……?

どうしよう。

他に思いあたる場所はなかった。

縋る思いで、道路から海へと身を乗り出すようにして、目を凝らす。
まだ、海の家もできあがっていなくて、見通しが利いた。
湘南の浜辺は開けていて、死角なんてありそうもない。

でも、きっと……。

絶対ここにいるはず。

道路から砂浜を覗き込みながら歩いていたけれど、埒が明かない。
道路のすぐ下を見逃すのが怖くて、階段を見つけて、砂浜へと下りた。

湿った砂が重たい。
雨は本降りで、パンプスの中へも入り始めていた。

思い切ってパンプスを持って、ストッキングになると、砂浜を駆け出した。

きっと、このどこかにいる。

雨は、どんどん強さを増す。
カバンを胸に抱え込んで、ひた走った。

あの時と変わらないことも変わってしまっことも、私はジョーにちゃんと伝えたい。

海岸が、徐々に狭くなってきた。

海岸沿いの道路も、そこから降りる階段も小さくなっていき、海へ直角に降りていた階段は、海に並行にも降りるようになっていた。

海へ真っ直ぐ降りる階段と、並行に降りる階段。
その両方が直角に合わさった真ん中に、ぽっかりと空間が空いていた。
洞窟のようなその小さな隠れ家に、ジョーはいた。

「……ジョー?」
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