一途な小説家の初恋独占契約
「キミと一緒には、いられない。キミの傍にいると、僕は自分のエゴばかり押し付けてしまう。翻訳のことも、家に押しかけたことも、キミを想う気持ちも……何もかもだ。僕の我がままに、キミを振り回してばかりだ」
「それでいいよ」

腫れぼったい目は、開けるのがやっとで、大好きなジョーの姿さえ滲んでしまう。
それでも、ジョーを私の瞳いっぱいに映す。

「私、嫌だなんて言った?」
「え……?」

不安げなジョーに、微笑む。

「嫌だったことなんて、一つもないよ。私の訳を評価してくれて、嬉しかった。ジョーが文字に込めた気持ちが、私の翻訳で伝わったってことだよね。ジョーも同じように、私のしたいことを、私より分かってくれていたんだね」

目を閉じると、8年前に戻るよう。

「翻訳も、あなたが触れてくれたのも、本当は全部、私がしたかったことなの。そうしてもらって、初めて気づけたの。
ありがとう。嬉しかった。ずっとずっと大事にしてくれて。……私の夢も、私のことも」

目を開くと、ジョーは呆然としていた。
飾りようもないその表情に、私の笑みは深くなる。

「私の気持ちは、あの頃と変わってないよ。あたなの書く文字が好き。あなたのくれる言葉が好き。あなたの優しさも強さも、とても大切に思ってる。
でも、あの頃よりずっとずっと……ずっとずっとあなたが好き。大好き。お願いだから、離れようとしないで。もっと……もっと近くに来て」

ジョーが、私を見つめている。

苦しげな表情に、私は心の中で、精一杯のエールを送る。
いつもジョーを励まして来たように。
いつも、私がジョーに励ましてもらったように。

……お願い。私の傍に来て……!

「……もう、キミを離せなくなるよ」
「そうしてほしいの」

ジョーが大きな瞳を、さらに見開く。
その中で輝く歓喜は、あの日見た流れ星のようだった。

「……汐璃!」
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