一途な小説家の初恋独占契約
階段の下から飛び出たジョーは、私をきつく、きつく抱き締めた。

雨から守るように。
もう二度と、離すことのないように。

私も、ジョーを初めて抱き締める。
私の腕では回りきらないほどの背中は、広くて……とても温かかった。

目を閉じると、初めて書いた手紙から今日までの10年が駆け巡る。
距離は離れていても、私たちは、お互いを心の一番近いところに置いていた。
こうして抱き合えなかったことが不自然なほど、近くに、いつもお互いの存在があった。

「……ジョー」

私が小さく呼びかけると、ジョーは私の肩口から顔を上げ、うっとりするような甘い微笑をくれた。

雨から守るように私の髪を撫で、その髪に手を差し入れると、私の顔を真上に向かせた。

恭しく腰を屈めたジョーからの、口づけ。
湘南での二度目のキスは……唇に降ってきた。

降り続ける雨も気にせず、私たちは互いを求め合った。

「ジョーに読んでほしいものがあるの」

ジョーがいた階段の下に二人で潜り込み、投げ出していたカバンから、紙の束を取り出したのは、雨で冷えた体が乾く気がするほど、お互いが熱くなってからだった。

紙は、すっかり湿っていたけれど、濡れてはいなかった。

「これは……」
「ジョーの最新刊の日本語訳。私が訳したの」
「汐璃が……」

ジョーは、震える手でそれを受け取った。
すぐさま目が文字を追う。

前のめりで読み出してすぐに、ハッとジョーが顔を上げた。

「濡れたままじゃ風邪を引く」
「いいから。大丈夫だから、先に読んで」

ジョーは自分のジャケットを私に被せると、私を膝の間に置いてしゃがみ込んだ。

それからはもう、黙ったままだった。
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