一途な小説家の初恋独占契約
――Dear 汐璃
――Joseph 早見 Oliveira

親愛なる汐璃へ。
ジョゼフ・早見・オリヴェイラ。

英語と漢字交じりのこの言葉は、ジョーが私との手紙だけで書くと言っていた、独特の表現だ。
ジョーの手紙に必ず入るこの筆跡を、私が間違えるわけない。

アメリカ人のお父さんと、日本人のお母さんの下に生まれたジョーは、アメリカで生まれ、アメリカで育っている。
日本語は話せるけれど、読み書きは苦手。

英語のみのやり取りは、打ち解けるうちに、ジョーからは日本語と英語で届くようになっていった。
時には、お互いに添削を頼みあったりもした。

10年間で一体何通の手紙を送りあっただろう。
私たちは、時にすぐ傍にいる家族や友達にも打ち明けないことまで語り合ってきた。

「間違いありません。この人は、私の親友ジョゼフ・早見・オリヴェイラです」

キッパリと言い切った拍子に、ホロリと涙が零れ落ちた。

それを、ジョーの太い指先が、そっと拭ってくれる。

優しい人だった。
会ったのは、たった1回きりだったけれど、ずっと私を励まし、見守ってくれた、大切な親友だ。

その様子を見て、どこか半信半疑だった周囲の人たちも、ようやく認めてくれたようだった。

「じゃあ、もういいかな。さあ、汐璃。行こう」
「え? どこに?」

そもそも、なんで私は呼び出されたんだっけ?
まだ仕事中だよね?

戸惑う私を覗き込むように屈んだジョーは、腰に据えていない方の手で、私の手を取った。

「……汐璃。僕にキミを独占させてくれ」
「え?」
「先生、そのお話は少しお待ちください」

割って入ったのは、寺下部長だった。
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