一途な小説家の初恋独占契約
「編集部には、英語のできる担当者もおりますし、米国の出版事情に詳しい者も、海外からのお客様に慣れている者もおります。窪田が知人ということは分かりましたが、あいにく窪田は営業部の人間でして……」
「難しいことは頼んでいない。たった一週間、僕の仕事に同行してくれと言っているだけだ」
「ですが……」
「汐璃じゃないなら、付き添いは結構だ」

さっきまでと一転して、ジョーは強硬だ。

不機嫌さを隠そうともしないジョーに驚きながら、小さく袖を引っ張る。

「何の話?」
「あさってから、イベントや取材が入っているんだ。清谷書房の人がついて来てくれるのなら、汐璃にお願いしたいと思って」

私に合わせてか、ジョーも小声で答える。

「そういうことなら、私より慣れている編集部の人の方が、適任なんじゃないかな」
「汐璃がいい。汐璃がいないと不安なんだ。汐璃に会った、15歳以来の来日なんだよ」

握られた手に、ギュッと力が込められる。
心細そうな声音にハッとして見上げると、ジョーの瞳が震えていた。

「……分かった。私は、いいよ。でも、元々の自分の仕事もあるし、会社の方針もあるから」
「分かってる。ありがとう」

ホッとしたように力を緩めたジョーの手は、心もとなさを表すように私の手に軽く触れたまま、離れようとしない。

やっぱり、ジョーだ。

中学3年生のとき、交換留学生として2週間我が家にホームステイしたジョーは、慣れない日本の生活に、戸惑ってばかりだった。
お母さんは日本人とはいえ、日本には何度か、数日間ずつ遊びに来たことしかなかったのだ。
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