一途な小説家の初恋独占契約
部長に連れられたのは、私の所属する営業部だった。
私と編集部長という珍しい組み合わせに振り返る営業部員たちに構わず、真っ直ぐ前川営業部長の元へと進んでいく。

前川部長は、寺下部長より10歳以上年上の貫禄のある男性だ。
新入社員の私は、配属日に挨拶して以来、挨拶以上の言葉を交わしたことはない。

事前に連絡してあったのか、私たちに気づいた前川部長は、自ら先導して近くの打ち合わせスペースに案内しようとした。

「前川部長、できれば会議室で……」
「分かりました」

前川部長は、何かを察したように、営業の大部屋とは切り離された会議室へ私たちを案内した。

会議室の扉を、しっかりと閉めてから席に着く。

二人の部長に挟まれて、新入社員の私は肩身が狭い。
入社面接以来の緊張感だ。

「先ほど、お話しいただいた件ですね? やはり、ジョー・ラザフォード先生は、窪田さんをと?」
「ええ、どうしても窪田さんをというご指名で、他の社員なら付き添いはいらないとおっしゃっています」

どうやら、前川部長へは寺下部長から話がいっていたらしい。
そうでなきゃ、営業部の社員である私を、編集部の秋穂が直接呼び出すはずもないか。

寺下部長にいくつか確認した前川部長は、私に向き直った。

真剣な眼差しに、背筋が伸びる。

「窪田さん。今持っている仕事の都合がつくなら、ラザフォード先生のアテンドをすること自体は構わない?」

「はい。ジョー……ジョー先生とは、長い付き合いですから、彼の仕事の手伝いができるなら嬉しいです。彼は、久しぶりに来た日本で仕事をすることに不安を持っているようなので、知り合いに傍にいて欲しいようでした。ただ、私がどこまでお手伝いできるのか、自信がありませんが……」

「そうですか。分かりました」

前川部長と寺下部長は、視線で何かを確認しあった。

譲り合ったような間の後、寺下部長が口を開く。
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