一途な小説家の初恋独占契約
「それは分かりましたが、契約の交渉って、条件が折り合わないだけなんじゃないんですか? ジョー先生は、なんて言っているんですか?」
「ジョー先生からは、ただ待ってくれと」
「……それなら、待てばいいのでは?」

単純にそう思ってしまった私に、寺下部長は重々しく首を振った。

「他社からも話が言っているはず。条件を比べられているのかもしれない。先生のご希望が分かれば、こちらも譲歩しようがあるけれど、理由は頑としておっしゃらないの」

寺下部長は、きれいな顔をグッと私に近づけた。

「これは、先生の信頼を得ている窪田さんにしか頼めないわ」
「そんな……」
「他社に持っていかれる前に、この一週間で先生の真意を探ってほしいの」
「……分かりました」

部長から言い渡された仕事を、新入社員が断れるはずがない。

ジョーと楽しく一緒にいられるのかと、ちょっと期待してしまったのだけれど、現実は予想以上に厳しかった。

営業部での私の仕事は、前川部長が責任を持って他の人に割り振り、担当している書店さんなどには迷惑がかからないよう、約束してくれたのだけが救いだった。


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