一途な小説家の初恋独占契約
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慌しく編集部のフロアへ戻ると、廊下はごった返していた。
「どうしたの? 何かあった?」
寺下編集部長が、手近にいた社員に声をかける。
その瞬間、ぞろっと人波が動いて、私たちの前に道が開けた。
「汐璃! どうだった?」
「ジョー!?」
周囲の人たちより頭一つ分突き抜けているジョーが、悠々と歩いてくる。
最初に編集部の会議室に連れて来られたときのデジャヴみたいだ。
「もう打ち合わせは、終わったの?」
「僕の方は、とっくに終わってる」
近くにいた編集部の人にそれを確認した寺下部長が、ジョーに話しかける。
「ラザフォード先生のご希望通り、窪田をつけます。ご滞在の間、ご要望があれば窪田にお申し付けください」
「ありがとう」
「先生は、もうお帰りですか?」
「汐璃の家に行きたいと思っていたんだ」
「窪田の家に!?」
ジョーを取り囲む編集部の人たちの輪から抜け出し、気色ばんだのは直島さんだ。
驚いている私に、ジョーは肩を竦める。
「もし、汐璃が許してくれたらだけどね。キミの送ってくれた写真を見て、次回作の構想が浮かんだんだ。直接この目で見させてくれないか?」
私の家は、今年の4月入社すると同時に移り住んだ、都内にある祖母の家だ。
昭和の時代が色濃く残る日本家屋で、ジョーには珍しいかと思って、写真を手紙と一緒に入れたのだ。
「では、次の作品の舞台は日本に?」
「ああ、そうしたいと思ってる」
「まあ!」
寺下部長の目の色が変わる。
「ちょっと、部長!」
なおも突っかかっていこうとした直島さんは、次回作に目が眩んだ部長に押し留められてしまった。
「取材でしたら、ご協力しないわけには参りません。ねえ、窪田さん」
私の困惑を無視して、寺下部長がはしゃぐ。
「ありがとう。汐璃のおばあさんにも会いたかったんだ」
優しい眼差しを向けるジョーに、胸がいっぱいになる。