一途な小説家の初恋独占契約
「でも……」

私が言い終わる前に、エレベーターの前に誘導されてしまった。

「窪田さん、先生がスムーズに取材できるよう、できるだけサポートして差し上げてね。営業部には、直帰にするよう話しておくから」

ジョーのアテンドは、もう始まっているようだ。
取材と言われてしまえば、断るわけにはいかない。

編集部の人がエレベーターを呼び、ジョーがさり気なく私の腰を引く。

「先生、今日はありがとうございました」

私の困惑は、次回作の企画で頭がいっぱいになった寺下部長に黙殺され、無常にもエレベーターの扉は私とジョーだけを乗せて閉まってしまった。

「……うちに来るだなんて聞いてない!」
「ごめん、汐璃」

ジョーは、廊下から一時も離さなかった私の腰を、引き寄せる。
大きな手のひらを当てられ、男性にこんなに密着されることに慣れていない私は、それだけでドキドキしてしまう。

「でも、さっき言ったことはどれも本当なんだ。キミのおばあさんに会えるのも、本当に楽しみにしてきたんだよ」

エレベーターが到着した隙に、ジョーの手を離れる。

スーツケースを持つお客様であるジョーを先に降ろそうとしても、私が先に降りろと言う。
仕方ないから、先に降りて、ドアを手で開けておく。

「ああ、そんなことをさせてごめん。汐璃は、優しいんだな」
「ちょ……っ!」

私の行動に気づいたジョーは、すぐさまエレベーターを飛び降り、私の手に微かに口付けた。

会社で何てことするの!?
悲鳴を上げるのをどうにか堪えて、ジョーを引っ張るように会社の外に出る。

夕方の中途半端な時間帯とはいえ、1階のロビーには人通りがあったはず。
受付からは、見えなかったことを祈る他ない。
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