一途な小説家の初恋独占契約
ただでさえ、ジョーは目立つのだ。
一見して、外国人だと決めつけられる外見ではないけれど、彼の異質さは明らかだ。
日本人の平均身長を優に上回り、端整で、でも日本人より少しくっきりとした顔立ちが、遠くからでも目を惹かれずにいられない。

初めてジョーを見た人は、この人があんなに甘いラブストーリーを紡ぎ出す作家だなんて思わないだろう。
俳優かモデルか、もしくは、スポーツ選手だと思うのが妥当だ。

出版社とはいえ、ジョー・ラザフォードの姿を知らない人がほとんどだろうに、老若男女問わず、ジョーに視線が吸い寄せられている。

そんな中、手とはいえキスされて、悠々と歩いてなんていられない。

慌てた私は、折よく通り過ぎようとしたタクシーに、ジョーと逃げ込んだ。

「……本当に、うちに来るの?」
「ああ。もし、汐璃が嫌でなければ、ぜひ。さっき言ったように、次回作は、日本を舞台にしたいと思っているんだ。汐璃の写真に写っていた瓦屋根、畳、ベランダ。どれも、僕には縁遠いものだ。次の作品を書くために、どうしても取材したい。協力してくれないか?」
「……分かった。古いだけの家だから、あまり期待しないでね」
「ありがとう」

運転手さんに家の住所を告げる。
会社から家までは、電車でも車でも30分ちょっとだ。
エレベーターに乗る前に、編集部の人から渡されたタクシーチケットを、有り難く使わせてもらおう。

「それにしても、本当にびっくりした。ジョーが、ジョー・ラザフォードだなんて」

物書きを仕事にしているとは聞いていたけれど、小説を書いているだなんて知らなかった。
学生の頃は、タウン誌のライターのアルバイトをしていたので、卒業してからも同じような仕事をしているのだと思っていたのだ。

でも、ジョーがジョー・ラザフォードなら、学生時代から作品を出版していたということになる。
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