一途な小説家の初恋独占契約
「言い出しづらくて。汐璃の率直な感想も聞きたかったし」
「……それは、成功したわね」

ジョーに薦められるまま、ジョー・ラザフォードの作品は全部読み、私は熱心に感想を書き綴っては、ジョーに送った。
著者本人にそれを読まれていただなんて、何か失礼なことを書いていなかったか、心配になる。

「汐璃がどう感じるのか、いつも怖くて、それでいて楽しみで仕方なかった。汐璃に読んでほしくて、書いていたんだよ」
「……ジョーの作品、大好きよ」

ジョーは、整った顔を恥ずかしそうに緩めた。

……ああ、変わってない。

シャイな男の子は、すっかり立派な男性になったけれど、きっと本質は同じなんだ。

私たちは、手紙に書ききれなかったことを、飽きることなく話した。
家に着くまで、あっという間だった。









タクシーを家の前までつけてもらい、古びた鉄の門扉を開けて、ジョーを自宅に招く。

ブロック塀に囲われた中に植木と小さな庭、それに瓦屋根の二階建て家屋がある。
周囲の住宅と比べて、大きくもなければ小さすぎることもない、ごく一般的な住宅だ。

短いアプローチを抜けて、引き戸の玄関を開く。
ジョーは、物珍しそうに辺りを見回しながら、スーツケースを転がしてきた。

「汐璃の送ってくれた写真と同じだ!」

当たり前のことに、さも嬉しそうに感激していて、気恥ずかしくなる。
私の撮った写真は、大してうまくもない、ごく普通のスナップ写真だ。

スーツケースは、玄関内に置いておいてもらい、先に庭に案内した。

「ジョーの言っていたベランダって、縁側のこと?」
「そう、ここだ!」

事前に来ると分かっていたなら、週末に草取りでもしておいたのに。

狭い庭に植えられている植木の枝は伸び放題だし、雑草が伸び始めている。
そろそろ植木屋さんを呼んだ方がいいのかもしれない。
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