一途な小説家の初恋独占契約
「ああ。僕がどんなに感動しているか、分かる? キミの写真を見てからずっと、ここに来てみたくて堪らなかったんだ」
「大げさね」
「大げさなんかじゃないよ。初めて来た場所なのに、そんな気がしない。落ち着いた良い家だね」
「ありがとう」

手放しに褒めてくれるので、恥ずかしい。
でも、もちろん嬉しい。
私なりに大切にしながら暮らしている家だから。

私には見慣れた光景を、ジョーは熱心に写真に収め始めた。
時おり、タブレットに何か書き込んでいる様子も見える。

私は、その間に家の中を簡単に片づけることにした。

一通り見渡して、見られて恥ずかしいものを押し入れに突っ込んでから庭に戻ると、ジョーは縁側に腰掛けていた。

なんてことはない姿勢なのに、絵になる。
写真に収めたい景色というのは、こういうもののことだろう。

「古い家でしょう?」
「趣があっていいね」
「……日本語上手になったね」
「汐璃と会ってから、随分勉強した」

思いがけず強い視線にうろたえて、私の方が先に視線を逸らした。

文通を始めた中学生の頃、ジョーは、ほとんど日本語が書けなかった。
文通をする間に、お母さんが日本人で、多少会話はできることを知ったけれど、読み書きは苦手だと言い、手紙も英語でやり取りしていた。

しばらくしてから、アメリカ人のお父さんの方に促されたと言って、日本語の短い文を書き添えてくるようになったけれど、ほとんど平仮名だった。

文通を始めて3年目、初めて会ったとき、確かに会話は問題なかったものの、これほどスムーズには話せなかったし、語彙も少なかった。
言いたくても日本語で表せないことが、たくさんあるようだった。

水族館で膝に打ちつけたジョーの拳を、私は忘れずにいる。

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