一途な小説家の初恋独占契約
「それに、汐璃の訳がとても参考になった」
「お互い様ね」

今となっては、ジョーは手紙の半分を英語で、半分を日本語で書いている。

英語の部分を日本語に翻訳して送り返すのが、ジョーにとっては日本語の勉強に、私にとっては翻訳の勉強になった。

私の英語を、ジョーがより自然な表現に直してくれることもあった。
お互いに教え合うことも、文通の楽しみの一つだった。

「汐璃は……いや、いい」

何か言いかけたジョーは、それ以上は言わず、静かに微笑んだ。

「家の中も見る?」
「汐璃が許してくれるなら」

さっきも言われた、その台詞に胸をくすぐられる。

私より華奢だったジョーは、私なんかすっぽり覆ってしまうほど大きくなったのに、恭しくひざまずく騎士のように紳士的に私に尋ねてくれる。

「……前もって言ってくれれば、掃除しておいたのに」
「ごめん。でも、僕はありのままの汐璃の暮らしが見られて嬉しいよ」

口を尖らせても、ジョーは優しく笑うだけだった。
大人の男の余裕を見せつけられたような気になる。

「ありのままより、ちょっと汚いからね。普段は、もうちょっと綺麗にしてるから!」
「分かってる。突然やって来た僕が悪い」

言い訳がましく喚いても、ジョーは鷹揚に受け止めてしまう。

覚悟を決めて、玄関に戻り、家の中にジョーを迎えた。

玄関を入ると、短い廊下はすぐに左手に曲がる。
玄関のすぐ脇がキッチンとリビングダイニング、その奥に縁側のついている和室がある。

「ここが、汐璃の住んでいる家か……!」

好きに見ていいと言ったら、ジョーはそこかしこを観察し始めた。
私にとっては見慣れた風景だけれど、他人に見られると思うと、古さや掃除の行き届かなさが気になる。

ジョーにとっては、また違って見えるようで、熱心に見てはメモや写真を撮っている。
やはり和室が気になるようで、畳の感触や、そこから見える庭を何度も確かめているようだ。

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