一途な小説家の初恋独占契約
「参考になる?」
「ああ、とても。母の実家を思い出すよ。もう取り壊してしまったから、懐かしい」

ジョーの母方の祖父母は他界してしまい、お母さんの妹さんも海外で暮らしていると聞いている。
日本に親戚はいないのだ。

祖父母が健在の、ジョーが小学生の頃までは、日本に遊びに来たことがあったそうだ。
でも、うちにホームステイに来たときには、随分久しぶりの来日だった。

今回は、それ以来の日本だ。
ジョーの懐かしい記憶が、我が家で蘇ってきたのなら嬉しい。

「ねえ、このベランダ……」
「縁側、ね」
「さっきもそう言ったね。どういう字? これは、何のためにあるの?」
「うーん、字は分かるよ」

メモ用紙がないかと周囲を見回していると、ジョーがタブレットを差し出した。
手書きができるアプリを開いてくれている。

「書いてみて」

指で直接書いて良いらしい。
戸惑いながらも、人差し指を伸ばす。

緊張と、慣れない感触に、かなり字は下手になってしまった。

がっかりしながら指を下ろすと、タブレットを持っていてくれたジョーの視線に捕まった。
随分と近い距離に、ドキリとする。

「……ありがとう」

ジョーは、僅かに眉をひそめ、縁側に出た。

両手を突き上げて、伸びをする。
腕が、天井にくっつきそうだ。

「汐璃。あの木は?」

畳に映るジョーの影を踏みしめながら、私も縁側に出る。

「あれは、椿。その奥が、金木犀。どちらも寒くならないと咲かない花」
「そうか……見てみたいな」
「綺麗だよ。寂しくなっていく冬の景色を、パッと明るくしてくれるの。咲いたら、写真を送るね」
「……うん、ありがとう」

ジョーは、不自然なほど静かだった。

「2階も見る?」
「ぜひ」

軋む階段を昇り、ジョーを案内する。

2階は、3部屋ある。
その内の2つは和室で、襖を開ければ続きの部屋として使うことができるようになっていた。

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