一途な小説家の初恋独占契約
その生活の拠点が、もう一つの洋間だ。

和室からいったん廊下に出ると、私は困ってジョーを見上げた。

「あと一つは、私の部屋なんだけど……」
「うん」
「そこも……やっぱり、見たい?」

普段寝ている部屋を人に見られるのは恥ずかしい。
男の人になら、なおさらだ。

中学生のときは、ジョーと二人で私の部屋にいても何とも思わなかったのに、当時と比べると私の感覚も、目の前にいるジョーの姿もだいぶ違う。

「もし、汐璃が許してくれるなら。他の部屋は、あまり使っていないように見えたから、生活を感じたいんだ。中には入らないよ」

確かに、今使っているのは、この自分の部屋と、1階のキッチンやリビングだけだ。

諦めた私は、ドアを開けた。
ジョーは、あくまで取材に来ているんだから、できるだけ協力しなくてはいけない。

というか、取材なら、会社から言われなくたって率先して協力したい。
何しろ、私はジョゼフが手紙に書いてくれた作品も、ジョー・ラザフォードの作品も大好きなのだ。

内開きのドアを開けた私の横から、ジョーが部屋を覗く。
大きな身体は、ドアのスペースを覆ってしまうようだ。

「ここが、汐璃の部屋……」
「うん」

壁にペタリと背をつけた私は、ジョーの脇の下にすっぽりと入り、息を詰めていた。

じっくりと部屋を見渡したジョーは、至近距離で私を見下ろす。
息を殺していても、ジョーのつけている香水なのか、私の知らない良い香りがした。

「かわいいね」
「……インテリアとか、もうちょっと何とかした方がいいと思ってるんだけど、まだ手付かずで」

逃げ出すようにして、来た道を戻る。

「もう、1階に下りてもいいかな?」
「ああ、ありがとう。とても素敵な家だった。ここに住めたら、どんなに素晴らしいだろう」
「さっきも言ったけど、大げさね」

階段に向かうと、ジョーも続いてくるのが分かった。

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