一途な小説家の初恋独占契約
「本気でそう思ってるから言ってる。ここで暮らせたら、どんどん構想が膨らみそうだ」

ジョーの言葉は、冗談で済ませられない真剣みを帯びていて、思わず息が詰まる。

この場に、寺下部長がいなくて助かった。
部長がいたら、何としてもジョーがここに住めるよう画策するに違いない。

「ねえ、ジョー。そういえば、どこのホテルを取ってるの? この後の予定は?」
「今日はもう、予定はないよ。ホテルは……ごめん。実は、取ってないんだ。また、汐璃の家にホームステイできたらって思っていた」
「えっ」

驚きの余り、ストッキングが板張りの階段を滑った。

「キャッ!」
「……ッ、危ない」

ストンと尻餅をついて、そのまま滑り落ちそうな私を、太い腕が後ろから支える。
ジョーが、私の脇に後ろから腕を差し込み、引っ張り上げてくれていた。

「動くと危ない」
「……ッ」

ジョーは、私のすぐ後ろに腰を下ろし、階段に足を投げ出した私を、後ろから抱え込んだ。

「……ジョー?」
「じっとして」

耳の後ろに高い鼻が当たる。
飛び出そうな心臓は、私の腕よりも太ももに近い太さの腕に押さえ込まれている。

「……汐璃……」

擦れそうな声が、耳をくすぐる。
体温が、どんどん上がっていく。

「……怪我はない?」
「な、ないよ。ありがとう」

息が浅くなる。

苦しくなって目を瞑ると、ジョーの息が当たる耳が、燃えるように熱くなっているのが分かった。

「……ジョー。もう大丈夫だから、離して?」

抱き締める腕が、強くなった。
熱い吐息がうなじをくすぐる。

「僕は……中学生の頃みたいに、キミを独占したかったんだ。あのとき、学校でも家でも、キミはずっと一緒にいてくれた……」
「……」

ジョーは、ゆっくりと、ごくゆっくりと腕を緩め、私の肩を撫でながら、答えられない私をようやく解放してくれた。
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