一途な小説家の初恋独占契約
私はぎこちなく立ち上がって、数歩階段を下りて階下にたどり着いてから、階段の半ばで座り込んだままのジョーを振り返る。

「汐璃を困らせるつもりはないよ。ちゃんとホテルを探す。キミのボーイフレンドと鉢合わせしたくないしね」
「そんな人はいないって、ジョーが一番よく知ってるはず」
「……僕が一番?」
「そうよ」

薄暗い階段は、2階から夕陽が差し込んでいる。

ファッション誌のポートレートみたいだ。
ヘーゼルの瞳は潤んで揺れ、薄暗い中でも煌いていた。

「……汐璃。僕にとっての一番は、いつだってキミだった」
「私にとってもそうよ。ジョーが、私の一番の親友」

ジョーは、優しく微笑んだ。

「ホテルが決まるまで、追い出すのは、待ってくれる?」
「もちろん。まだまだ話し足りないし」
「それも、僕もだ」

1階のリビングにジョーを案内する。

私がコーヒーを用意する間、ジョーはタブレットで早速ホテルを探しているようだった。

リビングテーブルでタブレットを覗き込むジョーに、コーヒーを差し出す。

ありがとうとジョーは微笑むけれど、その顔は浮かない。

「どうかした?」
「……宇都宮って遠い? 箱根は?」
「え?」
「東京では、なかなかホテルが見つからなくて」
「え……」

そういえば、外国人観光客の急増で、都心のホテルはどこも満室が続いているとニュースで言っていた。
地方からの出張者の宿泊先が見つからないのは、実際によくあるらしいと、最近会社でも聞いたばかりだ。

栃木県も、場所によっては都内までの通勤圏内だけど、仕事でわざわざアメリカから来ているジョーに、遠距離通勤させるわけにはいかない。

「心配しないで。ネットで見つからなくても、直接出向いたら、カプセルホテルかどこかで空室もあるかもしれない。それに、漫画喫茶や24時間営業の店もたくさんあるんだろう?」
「あるには、あるけど……」
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