一途な小説家の初恋独占契約
私は泊まったことがないけれど、カプセルホテルは、日本人でもだいぶ狭いと聞く。
かなり大柄なジョーが快適に眠れるとは思えない。

漫画喫茶だって同じだ。
第一それだって、うまく空室が見つかるとも限らない。

そんな状態で、久々の来日で不慣れなジョーを、無責任に放り出すわけにはいかない。

せっかく、私を頼って来てくれたのに……。

前もって連絡を入れておいてくれればと、もう何度目かに思ったけれど、過ぎてしまったことは仕方ない。

悄然としながら、タブレットをつつくジョーを見て、覚悟を決める。

「……ここでいいなら、泊まってもいいよ」
「え!?」
「部屋なら、余ってるし……」

だって、まさか一緒に街に出て行って、漫画喫茶を探して、そこに大きなスーツケースを持ったジョーを置いてくるわけにもいかない。

「汐璃、本当にいいの? 僕なら、大丈夫だよ」
「……大丈夫なはずないよ。いいよ、うちにいなよ」

心細そうな姿は、昔と一緒だ。
やっぱり、こんなジョーを一人にしておくのは心配だ。

それに、チラッと寺下部長の姿も頭を過ぎった。
泊まる当てのないジョーを放り出したなんて知られたら、会社から何を言われるか考えるだけで恐ろしい。

「ありがとう、汐璃。本当は、不安だったんだ」

ジョーは、恥ずかしそうに笑ってみせた。

「それに、さっきも言ったけど、ここに汐璃といると、どんどんアイディアが湧き上がってくるんだ。汐璃の……日本人の暮らしを深く知れたら、良い作品が書ける気がする」
「ジョーの作品のためなら、やっぱり協力しないとね」
「それは、仕事として?」
「純粋に読者としてかな。私、ジョーの作品が好きだもの」

今度は、はっきりと照れてしまったジョーを残し、私は席を立った。

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