一途な小説家の初恋独占契約
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ジョーには、私の部屋の隣の、二間続きの和室を使ってもらうことにした。
1階の和室も、2階の和室も、押入れには祖母の荷物が入っていて、ジョーのものを置く余裕はないから、部屋が広い方が良いだろうと思ったのだ。
「タンスの中は空いているから、好きに使ってね」
「僕は、汐璃の部屋で構わないんだけど」
「やっぱり、ベッドの方がいい?」
和室だと、布団を使うしかない。
慣れていないと、眠りづらいかもしれない。
「そういうことじゃなくて、一緒にってこと」
悪戯そうに煌く瞳が厄介だ。
「そういうこと言うと、出て行ってもらいます!」
「分かったよ」
ジョーは、両手を上げて降参のポーズを取った。
荷物を運び終えると、近所の散策をしたいと言う。
私が玄関の鍵を閉めて、先に出ていたジョーの元へ駆け寄ると、ジョーは手を差し出した。
「何?」
「手を繋ごう」
言うが早いか、サッと私の右手を取ってしまう。
「ちょっと……!」
「恋人なら、普通でしょ?」
「そうかもしれないけど……っ! こんなのに取材はいらないでしょう?」
慌てる私とは対照的に、ジョーは動じない。
「必要だよ。好きな女の子と手を繋いだら、どう感じるか……とても重要なことだ」
「……でもっ!」
それって、本当に好きな人と繋がなきゃ意味がないんじゃ……?
それに、恋人と手を繋いだことなんて、ジョーだったらいくらでもあるはず。
……こんなにカッコよくなっちゃったんだもの。
私の恋話を聞きたがるくせに、ジョーが自分の恋愛を語ることはなかった。
今までは、それを少し寂しいなと思うくらいだった。
それなのに今は、チクッと胸が痛む。
だって、こんなにカッコよくて、スマートで、ちょっと強引だけど優しくて、モテないはずがない。