一途な小説家の初恋独占契約
「汐璃。僕が迷子になってもいいの?」

どうにか手を外そうとする私に、ジョーが呆れたように言う。
その言い草に呆れたくなるのは、私の方。

「それは困るけど、迷子になんてならないでしょ」
「日本で一人ぼっちになって、途方に暮れるかも」
「ジョーが!?」

堪らず笑い出した私にホッとした様子のジョーは、私の手を引くように歩き出す。

「ホームステイしたときは、手を引いてくれたじゃないか」
「あれは……妹もいたし、あまりにもジョーが心細そうだったから」

4歳下の妹は甘えん坊で、どこに行くにも家族と手を繋ぎたがったし、何かと言うとすぐ私に抱きついてきた。

それを真似するように、ジョーもピタリと私に張りつくものだから、ホームステイの間、私は妹とジョーの真ん中に入って、歩くのが常だったのだ。

懐かしい気持ちに浸って、隣に歩くジョーを見上げる。

すっかり背が高くなったジョーは、あの頃と同じように私の手を握り締めながらも、歩く姿は悠々としている。

結局、手を離してもらえず、そのまま二人で駅前や公園や住宅街を歩いて回った。

ジョーは、母方の祖父母の家に遊びに来ることはあっても、アメリカにしか住んだことがなかったから、私から見れば日本中にありそうな町の風景にも、新鮮な感想をくれた。

平凡な町中に、異質なほど端麗な容姿。
感性もまるきり外国人なのに、流暢な日本語が面白い。

「夕飯、どうする? 食べたいものある?」
「ラーメン! 日本のラーメンを食べるのを楽しみにしてたんだ」
「そういえば、ジョーはラーメンが好きだったね」

ホームステイしたときも、友達や家族とラーメンを食べに行った。
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