一途な小説家の初恋独占契約
「嫌だった? それなら、汐璃の好きなものにしよう」
「ううん、ラーメンは好きだよ。でも、ハイカロリーのものを食べても大丈夫なの? 身体を鍛えてるんじゃない?」

華奢だったジョーの身体は、すっかり逞しくなった。
鍛えていないと、こういう身体にはならないはずだ。

「日本に来たら、絶対食べようって決めてたんだ。アメリカにもラーメン店はたくさんあるけれど、やっぱり日本の方がおいしいんじゃないかって思って」

楽しそうにそう話したジョーは、パタッと歩みを止めた。

笑顔を消して、私を覗き込む。

「ねえ、汐璃。もしかして、前の僕みたいにヒョロヒョロしていた方がいい?」
「え? そんなことないよ」
「本当に? もし、汐璃が嫌なら、元に戻すよ」
「どうしてそんなこと言うの?」

ジョーの口調が、やけに真剣みを帯びていることに驚いた。
ここまで鍛え上げるには、相応の努力をしたはずだ。
それを簡単にやめると言うなんて。

「恋人の好みは、尊重したい」
「見た目には、そんなにこだわらないけれど……。その前に、そもそも私たちは恋人同士じゃないんだし」
「僕の取材に協力してくれると言ってくれたはずだ」
「……それはそうだけど」

繋がれた手に、キュッと力が込められる。

ジョーが俯くと、彫りの深い目元に、頬に、陰が落ちる。

薄暗くなった住宅街の狭い道で、外灯が灯る。
陰が深くなった。

「ジョー、何ラーメン食べたい?」
「……汐璃のお薦めで」

手を繋いだまま歩き出すと、ジョーが半歩後ろをついて来た。
大きな犬を散歩させているような気持ちになる。

黙っていれば、自信満々に見えるのに、時おり見せるいたいけな表情に、記憶が揺さぶらてしまう。

大体、私は頼られると弱いのだ。
妹にも友達にも、頼まれると面倒だと思う前に張り切ってしまう。

「ちょっと並ぶかもしれないけど、いいかな? 駅前のお店が、すっごく美味しいの」
「もちろん」

私たちは、駅前のラーメン屋さんに向かった。
もちろん、手は繋いだままだった。

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