一途な小説家の初恋独占契約
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ちょうどタイミングが良かったのか、それほど待たずにラーメン屋さんに入ることができた。
私たちが案内されたカウンターの二席以外は、満席だ。
「汐璃のお薦めは?」
「こっくり鴨出汁しょうゆ!」
「じゃあ、僕もそれを」
透き通ったスープに中太の麺、チャーシューの代わりに鴨のロースとたっぷりの葱が載っているこのお店の一押しメニューは、こくがあるのに口当たりはあっさりしていて食べやすい。
女性客も多い評判のお店だ。
日本でも珍しい鴨出汁のラーメンなんて、きっとアメリカにはないだろう。
「あ、おいしい!」
「でしょ!?」
夢中で食べていると、テーブル席の方から声が掛かった。
「窪田さん?」
慌てて振り返ると、南北書店の生駒さんだった。
「こんばんは。今日は、急に帰ってしまって、失礼しました。近くにお住まいだと聞いていましたが、お会いするのは初めてですね」
慌てて傍へ駆け寄り、挨拶する。
「本当だね。窪田さんも、ラーメン食べに来たりするんだ。あちらは、お連れの人?」
「ここのお店は好きで。ちょっと待っててくださいね」
スツールに座ったままこちらを見ていたジョーの元へ戻る。
「ジョー。あちらの方、私が担当している書店の人なんだけど、紹介してもいいかな?」
「もちろん」
ジョーは、長い足をスツールから下ろす。
といっても、ほとんど床についていたみたい。
私は足置きにさえ、爪先が届くかというくらいなのに、足の長さが違いすぎる。
柔らかに微笑んだジョーは、私の背中を軽く押しながら、生駒さんの元へ優雅に出向いた。