一途な小説家の初恋独占契約
ジョーは、私と手をつないだまま、江ノ島の山を下りた。

この2週間、妹とジョーに挟まれるようにして手を引かれるのもしばしばだったから、おかしいとは思わなかった。
でも、いつもは並んで歩いていたジョーの背中を見るのは、新鮮だった。

ギュッと手を握り締めてみると意外なほどジョーの手は大きく、ゴツゴツしていた。

すっかり夜だというのに帰りがたくて、二人で延々と砂浜を歩いた。
これでもうお終いだから寂しくてそうしているというのに、お祭の夜のように心が浮き立ち、いつまでもこの夜が続いていくような気がした。

「あ……流れ星っ!」
「え? 本当!?」
「翻訳家になれますように翻訳家になれますように翻訳家になれますようにっ!」

慌てて三度呟く私を、ジョーはキョトンとして見ていた。

「ジョーは、願い事しなくて良かったの?」
「願い事をするだなんて、知らなかった」
「流れ星が消える前に、3回唱えるんだよ。でも、私も流れ星を見たの、初めて!」

ジョーと過ごす最後の夜に流れ星を見られるなんて、奇跡的だと思った。

嬉しくて仕方ない私につられるように、ジョーも優しく微笑んだ。

「ねえ、ジョーの願い事は?」

少し俯いてじっと考え込んだジョーは、もう片方の私の手も取った。
向き合って両手をつながれる。

「ジョー?」

ジョーは、俯いたまま一歩近づき、そっと私の頬に口づけた。

「……」

やがて正面に戻ると、はにかんで笑った。

言葉はなかった。
波音と星空に包まれた、私のファーストキス。




ジョーの願い事を、私はまだ知らずにいる。








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