一途な小説家の初恋独占契約
「ジョー先生、こちらは、弊社の近くにある南北書店さんのチーフ、生駒さんです。生駒さん、こちらは、作家のジョー・ラザフォード先生です」
「えっ!? まさか、あの『シークレットロマンス』の?」
「ご存知とは、光栄です。ジョー・ラザフォードです。よろしく」
「あ、ああ……よろしくお願いいたします」

大きな手で生駒さんの右手をしっかりと握手したジョーは、生駒さんから名刺を受け取った。

「名刺は、持ち合わせていないので、失礼」
「いえ、お気になさらないで下さい。それにしても、日本語がお上手なんですね」
「ありがとう」

生駒さんの方が年上なのに、ジョーは堂々としている。

「窪田さん、ジョー先生とお会いするなんて、今日会ったときに言ってなかったじゃないか。水臭いな」
「すみません。急にご案内することになって……」
「そもそも、窪田さんは書店担当の営業でしょう? どうして、作家さんの案内なんか……」
「生駒さん」

ジョーの急な、けれど辺りを静まらせる声に、話を続けようとした生駒さんは、びっくりしたようにジョーを見上げた。

「お話を続けたいのは山々なんですが、ラーメンが伸びてしまう。店も混んでいて、待っている人も多いですし……」
「ああ、そうですね。失礼しました」

ちょうどそこへ生駒さんの頼んだラーメンが届いたので、それぞれ席に戻った。

「さあ、食べてしまおう」
「そうだね」

残り少なかったラーメンを食べ終えると、私とジョーはサッと席を立った。

「生駒さん、お先に失礼します」
「ああ。そういえば、明日来られなくなったって聞いたけど……」
「あ……」

明日の午後、南北書店に伺って、店頭の棚作りのお手伝いをする約束だった。
営業部の人が、私の仕事を早速調整してくれたのだろう。

「すみません。外せない仕事が入ってしまって……」
「その仕事って、もしかして、そのジョー・ラザフォード先生の?」
「ええと……」

ジョーと生駒さんを前にして、素直に頷くこともしづらい。
南北書店さんとの約束が、先に入っていたのは事実なのだ。
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