一途な小説家の初恋独占契約
煮え切らない私に、生駒さんは察したらしい。

「こっちが先に頼んでいたのに困るよ。何とかならないかな」
「……社内で調整してみます」
「頼むね」

ジョーの手が、そっと私の背中を押す。
生駒さんに礼をしてから、その場を去った。

狭い店内をジョーが横切ると、周りのお客さんから視線が集まる。
ジョーが、有名な作家だって知らなくても、目を惹かれずにはいられないのだろう。
女性客は少ないのに、男性からも、年配の方からもハッとしたような視線を向けられている。

お店から出ると、ジョーはまた手を繋ごうとした。

私は、生駒さんに見られたらと思うと気が気じゃない。
つい、お店を振り返ってしまうと、ジョーは強引に私の手を握り、指と指を絡めるようにした。

さっきより親密な仕草に、ドキッとする。

「彼が気になる?」
「だって、見られたら困るよ」

足早にお店から離れ、家へと向かう。

「どうして?」
「仕事関係の人に見られたら、恥ずかしい」
「……それだけ?」
「それだけって?」
「……随分親しそうだった」

それは、そうだろう。
入社してから3ヶ月、お世話になりっぱなしなのだ。

入社早々の書店研修で指導してくれた生駒さんは、私に社会人としてのイロハを教えてくれた。
それに、私のような書店担当は、営業先が決まっているルート営業だから、信頼関係がないと仕事がうまくいかない。

そう説明しても、ジョーの顔は晴れない。
寂しそうな顔を見ていると、これではいけないと思いつつも、繋いだ手も強く振り切れない。

「ねえ、汐璃。僕は、キミにとってどんな存在?」
「え? ジョーは、ペンフレンドでしょ? 私の大親友。そして、作家のジョー・ラザフォード先生」
「……親友か」

ジョーが急に足を止め、私はつんのめりそうになる。

それを危なげもなく支え、抱え込んだ私の瞳を覗く。

「恋人だって、さっきから何度も言ってるのに、まだそう呼ぶのを許してくれない?」
「……ッ」
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