一途な小説家の初恋独占契約
ジョーの澄んだ瞳を見返すことができない。

咄嗟に俯いた私の頬を、大きな手がそっと触れた。

「……今は、キミの恋人。そうだろ?」
「えっと、ジョー……」
「これは、デートだ」

自分にも私にも言い聞かせるように呟いたジョーは、私の手を、ジョーの腕に絡めさせる。

「デートの後、男は女性を家まで送り届けるのが使命だ」
「紳士なのね」
「その後のご褒美を期待しているんだ。家まで辿り着いてしまった恋人たちは、何をする?」

私たちも、家に着いてしまった。

ジョーにエスコートされ、玄関を開ける。
家の前でお別れするはずの恋人たちは、ここでは家の中まで一緒だ。

「分からないよ。私、その……あまり経験がなくて」

恋人がいたことがなかったわけじゃないけど、家まで送ってもらったことなんてない。

大学卒業までは実家暮らしだったし、その後移り住んだこの家にまで来た人はいなかったからだ。

ジョーが玄関の扉を閉め、私は鍵を下ろした。

「汐璃……キミが教えてくれないなら、僕が教えてあげる」
「え……?」

振り向けようとした私の頭を両手でそっと押さえ、ジョーが身を屈めた。
その大きな手でそっと髪が撫で下ろされる間、微かな感触が頭の上に降った気がした。



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