一途な小説家の初恋独占契約
「汐璃」

自分への注目は、さっぱり気にもせず、ジョーは近づいてくる。
部屋の中をジョーが歩き出すと、キャーキャー叫ぶ声まで聞こえ、ざわめきがフロア中に広がった。

「ジョー、どうしたの?」
「編集部との打ち合わせは終わったから、迎えに来た。僕を独占してくれるんだろう?」
「えっ」

ジョーは、満面の笑みだ。

「一緒にいてくれるんじゃなかった?」
「あ……うん、そうだね」

独占契約のことを言われたのかと思ったのだけれど、そうではなかったようだ。

動揺を隠して曖昧に微笑む。

「ええと……ジョー、この後の予定は?」
「汐璃と一緒にいること」
「……そうじゃなくて、取材に行きたいところとか」
「汐璃の仕事を取材したいな。汐璃は、営業の仕事って言ってたね?」
「うん。書店さんを回ったり、発注を受けたりする仕事。見ても面白いことはないと思うけど」
「みんな、自分の仕事はありふれていると思ってるものだよ。僕も一緒にいさせて」

一歩も引かないジョーに驚いたものの、好都合かもしれない。

「それなら、書店での仕事に行ってもいいかな。昨日会った生駒さんのいる南北書店で、『シークレットロマンス』のフェア準備のお手伝いをすることになっているの」
「先生、すみません。急なことで、代理が立てられないんですよ」

呆気に取られていた課長が我に帰り、口添えすると、ジョーは朗らかに請け負った。

「僕も一緒に、その書店に行きますよ。他ならぬ僕の本を紹介していただけるということですから、ご協力は惜しみません」
「そうですか! 助かります!」

課長は、パッと顔を明るくして、ジョーに何度も頭を下げた。
見守っていた先輩も、ホッとしている。

「私に、全部ついて回らなくてもいいんだからね。せっかく日本に来たんだから、行きたいところもあるだろうし」
「汐璃の仕事が見たいんだよ。できれば、今日は普段通りに仕事をしてくれないかな。どんなふうに働いているのか見てみたい」

戸惑う私に構わず、課長は乗り気になる。
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