一途な小説家の初恋独占契約
私がよく行くお店に行ってみたいというので、一昨日秋穂に会った喫茶店に連れて行く。
昭和を感じさせるお店だから、取材の参考になるかもしれないと思ったのだ。

「あ、また来た!」
「秋穂こそ」

お店には、秋穂もいた。

「図々しいんですけど、私もご一緒していいですか? 昨日ご挨拶させていただきました、翻訳文芸課の井口秋穂と申します。汐璃とは同期で、しょっちゅう一緒にご飯に行ってるんです」
「ええ、どうぞ」

来たばかりでカウンターに座っていた秋穂と一緒に、奥のテーブル席に移る。
二人掛けのソファが向かい合った四人席だ。

入口からジョーの顔が見えない方が騒ぎ立てられずに済むだろうということで、秋穂が奥に座る。
その隣に私が座ろうとしたら、ジョーが向かいの席を勧めてきた。

「並んで座ったら、狭いんじゃない?」
「僕は気にしないけど、嫌?」
「嫌というわけじゃないけど……」

結局、秋穂は一人で座り、私とジョーが並んで座った。

「ふふ、噂通りみたいね」

意味深な秋穂の笑いが気になる。
ジョーのお供に私がつくことに、編集部の人がどう思っているのかも気がかりだ。

「ジョー先生は、窪田汐璃にご執心ってこと。あ、ジョー先生、ここのお店の名物はナポリタンなんですけど、汐璃は、いつも玉子サンドですよ」
「じゃあ、僕も玉子サンドを」
「え……じゃあ、私は、たまにはナポリタンにしようかな」

注文を済ませると、秋穂は益々身を乗り出す。

「それで? 8年ぶりのドラマチックな再会は、どうだったの? ただのペンフレンドだって言ってたけど、一晩で恋に落ちた?」
「秋穂!? 何言ってるの!」
「違うの?」

コテンと首を傾げる秋穂に、私が食って掛かる前に、テーブルの下でジョーがそっと私の手を握った。

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