一途な小説家の初恋独占契約
「汐璃と恋に落ちるのに、一晩もいらないよ。一瞬あれば、十分さ」
「キャー! さすがベストセラー作家!! これぞ、世界中の女を落としたジョー・ラザフォードね!」
「やめてよ、二人ともっ!!」

私は、真っ赤になって顔を覆うばかりだ。

「秋穂、ジョーに失礼よ。少しは落ち着いて。ジョーも、そういう悪ノリはいいから……」
「冗談なんかじゃないって言ってるのに、信じてくれないのさ」
「あー……それって多分、先生がかっこよすぎるんだと思いますよ。現実感ないというか。先生の小説に出てくるヒーローみたいですもん。新作の表紙は、絶対先生のお写真にした方が売れると思います」
「それは、アメリカの出版社でも言われたけどね」
「やっぱり。それに、汐璃は、真面目な上に鈍感で、恋愛体質じゃありませんからね。一晩くらいじゃ足りないかもしれません」
「なるほど、時間をかけるしかないかな。……のんびりしているつもりは、ないんだけどね?」

親指で、私の手の甲をそっと撫でる。
そんな些細な仕草だけで、心拍数が上がる。

「……脈は、だいぶありそうですけどね」
「それなら、張り合いがあるな」

二人で笑い合わないでほしい。
黒いオーラが見える気がする。

鉄板に乗せられてきたアツアツのナポリタンに、ジョーの視線が止まる。

「ジョーも食べてみる?」
「うん」

はい、とフォークを渡そうとしても、ジョーは受け取らない。
ポカンと口を開けて待っている。

「……ジョー?」
「汐璃、あーんしてあげなきゃダメだよ」
「あー……ええっ!?」

爆笑している秋穂を叱る元気もなく、真っ赤に染まった顔を両手で覆う。

そんな私の頭を片手で撫でつつ、ジョーは自分で食べたようだ。

「うん、おいしい」
「……良かった」

顔を上げられない私の口元に、ジョーは玉子サンドを差し出す。

無言で首を振る私を、秋穂は容赦なく笑う。
恨みがましい私の視線に負けたのか、ジョーに別の話題を振ってくれた。
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