一途な小説家の初恋独占契約
「汐璃の家をご覧になって、参考になりました?」
「ああ、あの縁側というものに座ったのは初めてだった。昭和の時代感が出ていて、いい家だね」
「ぜひ、縁側に座って、お団子でも食べながら、お茶を飲んでみてください。ほっこりしますよ」
「ほっこり?」
「ほかほか……気持ちが温かくなるってことです」
「ああ、いいね。それ、やってみたい。ねえ、汐璃、いい?」

苦笑しながらも、もちろんと受け合う。
私も、おばあちゃんがいた頃は、近所の和菓子屋さんで買い込み、縁側であれこれと食べるのが楽しみだった。

我が家に何度か泊まりに来たこともある秋穂も、来るときは和菓子持参だ。

「汐璃。その時、先生に着物を着てもらってさ、写真撮っておいて! その写真一枚で、本が一万冊売れるよ!」
「ええ!?」
「着物? 汐璃も着るならいいよ」

ジョーに聞こえてるし。
こそこそ話してたつもりなんだろうけど、秋穂ったら、喋るうちに興奮してきちゃうんだもの。

「やった! 今の季節だったら、スイカかビール、花火もいいね」
「何もそこまでしなくても……」
「ジョー先生、着物を着るなんて、いい取材になりますよねー?」
「ああ、もちろん」
「商談成立ということで」

両手をパチッと合わせた秋穂には、かなわない。
営業部より、商売上手な気がする。

賑やかに食事を終えると、ようやく秋穂がおとなしくなった。

食後のコーヒーをゆっくり楽しんでいると、静かになったと思っていた秋穂が、おずおずと切り出した。

「ジョー先生、個人的なお願いをしても?」
「聞くだけ聞きましょう」
「秋穂、図々しいよ」

窘める私を制して、ジョーが秋穂を促す。

秋穂は、カバンから何かを取り出すと、ずいっとそれをジョーに捧げた。

「サイン、いただけないでしょうか!?」

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