一途な小説家の初恋独占契約
『シークレットロマンス』より後に出た、ジョーの最新刊だった。
まだ、日本語版は出ていない。
秋穂が差し出したのは、原書だった。
「ちょっと! それも2冊も?」
「1冊は、汐璃の分よ。汐璃のことだから、まだ先生にサイン頂いてないんでしょ?」
「う……」
もちろん、その本はしっかり購入済みで、私の部屋の本棚に並んでいるし、ジョーのサインだって欲しいに決まっている。
でも、友達だからって、こういうことを気軽に頼んでいいものかと躊躇していたのだ。
「そういうことなら、喜んで」
思案している私に構わず、秋穂の用意したサインペンで、ジョーはスラスラとサインを書き上げた。
秋穂は、ローマ字で名前を入れてもらって、喜んでいる。
「さあ、これは汐璃に」
“For my dearest” という、流れるような英字に比べるとおぼつかない字で、「汐璃」と書いてある。
「僕は、日本語を書くのが下手だから、滅多に書かないんだ。これは、内緒ね」
サイン会でどんなに頼まれても、日本語は書かないよと笑う。
恥ずかしそうな微笑に、胸がいっぱいになった。
本を心臓の上に当て、きつく抱き締める。
「二人の秘密にできる?」
「……うん」
ジョーの優しい眼差しが、さらにふわっと解けるように煌く。
何だか涙が零れそうになった。
「ねえ、汐璃。抱き締めるなら、本じゃなくて僕にしてほしいな」
「そ、そういうことは、外で言わないで」
「じゃあ……二人きりになったら、いいんだね」
「そうじゃないけど!」
秋穂にニヤニヤ笑われても、抱き締めた本を手放すなんてできなかった。
まだ、日本語版は出ていない。
秋穂が差し出したのは、原書だった。
「ちょっと! それも2冊も?」
「1冊は、汐璃の分よ。汐璃のことだから、まだ先生にサイン頂いてないんでしょ?」
「う……」
もちろん、その本はしっかり購入済みで、私の部屋の本棚に並んでいるし、ジョーのサインだって欲しいに決まっている。
でも、友達だからって、こういうことを気軽に頼んでいいものかと躊躇していたのだ。
「そういうことなら、喜んで」
思案している私に構わず、秋穂の用意したサインペンで、ジョーはスラスラとサインを書き上げた。
秋穂は、ローマ字で名前を入れてもらって、喜んでいる。
「さあ、これは汐璃に」
“For my dearest” という、流れるような英字に比べるとおぼつかない字で、「汐璃」と書いてある。
「僕は、日本語を書くのが下手だから、滅多に書かないんだ。これは、内緒ね」
サイン会でどんなに頼まれても、日本語は書かないよと笑う。
恥ずかしそうな微笑に、胸がいっぱいになった。
本を心臓の上に当て、きつく抱き締める。
「二人の秘密にできる?」
「……うん」
ジョーの優しい眼差しが、さらにふわっと解けるように煌く。
何だか涙が零れそうになった。
「ねえ、汐璃。抱き締めるなら、本じゃなくて僕にしてほしいな」
「そ、そういうことは、外で言わないで」
「じゃあ……二人きりになったら、いいんだね」
「そうじゃないけど!」
秋穂にニヤニヤ笑われても、抱き締めた本を手放すなんてできなかった。