一途な小説家の初恋独占契約
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秋穂と別れ、ジョーと二人で書店に向かった。
会社がタクシーチケットを用意してくれたので、タクシーで向かう。
ジョーは、気を遣わないで電車で良いと言うけれど、慣れない町で慣れない作業をするのは、疲れるはず。
それに、朝のように、好奇な視線に晒されなくて済むのは、私も助かった。
まず初めは、ターミナル駅にある全国チェーンの本屋さん。
ジョーの日程が限られているので、売上の良いお店に効率的に出向かないといけない。
この書店は、学生さんから近隣の会社に勤める社会人まで、多くの人が寄る。
女性客の来店も多く、発売当初は『シークレットロマンス』もかなり売れた。
私の直接の担当店舗じゃないけれど、一人で担当先を回らせてもらう前は、先輩と一緒によく連れてこられたお店だ。
あらかじめ連絡してあったから、海外小説担当の渋谷さんと文庫本担当の西川さんという、顔なじみの二人の女性店員さんが待っていてくれた。
「お世話になっております。清谷書房の窪田です。この度は、突然すみませんって……あの、どうかされました?」
挨拶を続けようとしたところで、二人の様子がおかしいことに気づいて、言葉を止める。
「あ……あぁぁぁぁ……西川ちゃん、どうしよう、どうしよう、どうしよう……!」
「渋谷さぁん……! やばい、やばいやばいリアルヒーロー来た! 超絶イケメン降臨しちゃいましたぁぁぁ!!」
「……ええと?」
二人で手を取り合って震えている。
渋谷さんは四十代の才媛、西川さんは二十代ながら落ち着いた雰囲気で、仕事もかなり任されていると聞いている。
いつも冷静な二人のこんな様子は、見たことがなかった。
「あの……」
「ひゃあぁぁぁっ!! ア、アイキャンノットスピークイングリッシュッ!」
ジョーが口を開こうとしただけで悲鳴が上がった。
平日の昼間、しかもお店の隅ということで、お客さんが少なかったのが幸いだ。