一途な小説家の初恋独占契約
サインが終わったジョーが、事務室から出てきた。
周りのお客さんが、チラチラと視線を送る。
どこにいても目立つようだ。

ジョーを追うように、西川さんと、店長さんを始めとした手の空いたスタッフも総出で出て来た。

「厚かましいんですが、写真を撮らせてもらえないでしょうか? 拡大して、色紙の横に貼りたいので」
「良いですよ」

お店の看板の前で、ジョー一人と、スタッフの皆さんと一緒にという二枚の写真を撮った。

「こちらで良いでしょうか」

カメラを貸してくれた店長さんにお願いする。

「よく撮れてますね。後で、SNSにも上げておきます」
「よろしくお願いします。今日は、ありがとうございました」

次もあるので、長話はせずに退出する。

「ねえ、汐璃。なんで、汐璃がカメラマンになるの? 一緒に撮ろうよ」
「あの本屋さんの店頭に飾るのに、出版社の社員が写ってたらおかしいよ」
「じゃあ、後で僕と写真撮ってね」
「分かった、分かった」

お店では、堂々としてみんなを魅了していたのに、そんなことにこだわるなんて、子どもみたいだ。

笑いをこらえて、生返事すると、グイッと腕を引かれた。

「本当に分かった? 約束だよ」
「え……うん。約束する」

引き寄せられた右手だけじゃなく、腰にも腕が回る。
近いから……っ!

「約束破ったら、お仕置きするからね?」

ニヤリと上がった口角が妖艶で、目が離せない。

「汐璃? そんなに見つめてくれるなら、ここでお仕置きしようか?」
「えっ!? 約束破ってないし!」
「そうだった」
「もう!」

怒ったふりで誤魔化しながら、ジョーの腕から抜け出る。

昨日より、さらに親密さを増したようなジョーに、ドキドキする。
本当に、ジョーの小説のヒーローがヒロインにするような仕草ばかりだ。

私は、付き合った彼氏にも、こんなふうにされたことはなくて、どうすればいいか分からず、されるがままだ。

「ジョー、次のお店にすぐ行ける? 疲れたりしてない?」
「大丈夫だよ。汐璃と一緒なら、どこにでも行こう」

長い足でたやすく追いついたジョーは、そっと私の背に手をあて、エスコートしてくれた。


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