一途な小説家の初恋独占契約
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他の書店も巡った後、今日最後の仕事として、南北書店にやって来た。
「こんにちは。清谷書房です」
「ああ、いらっしゃい」
生駒さんが待っていてくれた。
「あ! もう準備が進んでますね」
目立ちにくいお店の奥のテーブルに、単行本が置いてある。
お店が閉店した後、場所を中央に移し、明日の朝からはDVDと文庫本も並ぶという。
「盛大に取り扱ってくださって、有り難いです。ジョー先生が色紙も書いてくださったので、もしよろしければ、こちらも飾ってください」
「ああ」
そこで初めて気づいたとでも言うように、生駒さんがジョーのことをチラッと見る。
「昨日もお会いしましたね。今日は、よろしくお願いします」
「どうも」
ジョーが差し出そうとした手が見えなかったのか、生駒さんはフイッとテーブルに向き直ってしまう。
「汐璃ちゃん、早速だけど手伝って欲しいんだ。平置きの在庫を持って来てくれないかな」
「……はい」
あれ。
いつもは、窪田さんって呼んでるよね。
忙しそうにしてるから、わざわざ指摘するほどでもないけど……。
「ジョー先生は、どちらでサインすれば?」
「ああ……」
普段、キビキビしているはずの生駒さんは、気だるそうに辺りを見渡し、嬉々として様子を窺っていた女性社員の宮崎さんを呼び寄せた。
「ご案内して」
「あ、じゃあ、私もいったん先生と一緒にバックヤードに入らせていただきますね」
「必要ないよ。こっちを手伝って」
「いえ、その……冊数とか確認して、すぐ戻ってきますので!」
宮崎さんを目線で促して、そそくさとその場を離れる。
宮崎さんの後に続きながら、様子を見守っていてくれたジョーに小声で謝る。
「ジョー、ごめんね。生駒さん、だいぶお忙しいのか……」
「気にしてないよ。それより、力仕事だったら、僕に手伝わせて」
「作家さんは、そんなことしなくていいんだよ。その代わり、またサインお願いできる?」
「もちろん」