一途な小説家の初恋独占契約
バックヤードに着くと、聞いていたより多い冊数が用意されていた。

「増えちゃってごめんなさい! でも、昼間に出た先生のお写真が、ものすごい勢いで拡散してるんです」
「え!? 見せてもらえますか?」
「どうぞ」

宮崎さんがお店のパソコンで見せてくれたのは、最初に立ち寄ったターミナル駅の書店のSNSだった。
ジョーが一人で映った写真の拡散数が、すごいことになっている。

「え? もう売り切れ!?」

その後の投稿では、店頭に出したサイン本が、もう売切れてしまったことや、ジョーの写真が引き伸ばされたパネルを携帯電話で撮影するお客さんの姿なんかが投稿されている。

「なので、ぜひうちも多く置かせていただきたくて。ご負担でなければ、お願いします!」

勢い良くお辞儀する宮崎さんと、呆然とする私に、ジョーは鷹揚に微笑んだ。

「構いませんよ。ここで作業しても?」
「はい、お願いします」

疲れた様子も見せず、ジョーはペンを取る。
その様子を確認して、店頭に戻ろうとする私を、ジョーが呼び止めた。

「え、汐璃は行っちゃうの?」
「うん、生駒さんを手伝わないと」

ジョーは、しばらく押し黙った。

「ジョー?」
「……すぐ終わらせる」
「急がなくて大丈夫だよ。今日は、このお店が最後だから」

猛然とサインを書き始めたジョーを宮崎さんに頼み、店頭に戻った。

催事用のテーブルでは、生駒さんが一人で作業している。

「お待たせしました、生駒さん。チーフ自ら動いてくださって、どうもありがとうございます」
「俺は、汐璃ちゃんだから、こうして清谷書房の本が売れるように、がんばってるんだよ」
「はい、ありがとうございます」

いつもより厳しい生駒さんの声音に、ビクリとする。

私を信頼してくれているんだという褒め言葉だと思うのに、素直に喜ぶには口調が厳しすぎる。

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