一途な小説家の初恋独占契約
「井口さんには、浴衣がいいんじゃないかと聞いてきたんですが」
「今は、浴衣も外出着になりましたからね。お若い方が、初めて着物をお召しになるには、よろしいと思いますよ」
「すぐに着られるものは、ありますか?」
「ええ、こちらに」

高級そうな呉服店には意外なことに、すぐ着て帰りたいという外国人観光客に対応して、既に仕立ててあるものも揃っていた。
それも、ジョーのように大柄な人向けのサイズもあると言う。

「まずは、汐璃のを選ぼう」
「え、私も? 私はいいよ」
「そんなこと言わないで。それとも、どれも気に入らない?」

白や紺、ピンクやブルーと色とりどりの浴衣が広げられる。
柄も古典的なものからモダンなものまで様々だ。

それでも、さすがに量販店で売っているものとは、質が違う。
柄も上品だし、縫製も丁寧。
何より、生地がしなやかだ。
気に入らないわけがない。

「素敵すぎて、選べない……」
「仕方ないな」

ジョーは、お店の人と相談して、たくさんの浴衣から3つを選んだ。

薄いブルーの地に、水色とパープルの葵の花模様と流水紋が入っている、かわいらしいもの。
淡い藍色の地が絞りになっている、唐草と花が流れる大人っぽいもの。
白地に、落ち着いたピンク色のグラデーションで小花が散っているもの。

「最後のだな」

私も気に入ったことをジョーが見届けると、私は別室へ連れて行かれてしまった。

帯は、薄萌黄ですっきり締める。
近くの美容室と提携しているらしく、女性の美容師さんにヘアメイクまでしてもらう。
髪には、ピンクの花簪。
肌は、いつもよりふんわりしたパウダーを乗せ、艶っぽいリップに仕上げてくれた。

浴衣に合わせた下駄とバッグも用意され、すっかり仕上げてもらったことに戸惑いながら店頭に戻ると、ジョーが振り返った。

私の帯より少し落ち着いた色合いの縞の浴衣に、藍海松茶の帯をキュッと締めている。
目を見開いて、手にした扇子をパンッと閉じると、大きな瞳を線になるまで細めた。

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