一途な小説家の初恋独占契約
ジョーの腕が伸びて、私の顔を寄せる。
頬を寄せ合うようにして、写真を撮られた。

私は、慌てて傍を離れる。

「花火しよう、花火!」

撮られてしまった写真は、もう諦めよう。

デリと一緒に買ってきた、手持ち花火を広げる。

「中学生のときも、家でやったね」

シュウッと花火が燃え上がると、途端に静けさが増した。

「……ジョー、あのね……」

花火を見つめたまま、話し始める。

銀座に行って、バタバタして忘れそうになっていたけれど、気になっていたことがある。

ジョーの人気が急に出て、お祭り騒ぎだった営業部とは裏腹に、ジョーは落ち着いていた。
淡々としすぎているほどに。

「人気が出たのに、ジョーは嬉しくないの?」
「僕は……」

縁側に座り、膝の上で指を組んだジョーは、忙しなく動かしていた手を止めると、そっと私を見返した。

「僕は、一人でいいんだ。自分の書いたものが、ちゃんと届くなら」
「……だから、日本語版を出さないの? みんな、ジョーの本を待ってるよ」

ついに訊いてしまった。
心臓がバクバク音を立てる。

せっかく素敵な小説を書いているのに、ジョーはみんなに届けたくないのかな。
清谷書房との関係性が拗れでもしているのかと思っていたけれど、昨日と今日、会社の人たちと話したりしているジョーに、そんなそぶりは見えなかった。

だったら、ジョーが出版を止めている理由は、何なんだろう……。

花火の光が差し込んで、ジョーの瞳がオレンジ色に染まる。
いつもより明るい虹彩が静かで、私はしばらく口を開けなかった。

「……本が売れたら嬉しいでしょ?」
「うーん……そうだね。お金は必要だ。好きな子に、幸せになってもらうためのお金が。おいしいものを食べさせて、きれいなものを着させて、居心地の良い家で安心して眠ってもらう。好きな仕事をしてもらって、時々旅行にも連れて行ったりするには、お金はあった方がいい」
「……そうかもね」

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