一途な小説家の初恋独占契約
花火が終わった。

ちょっと面白くないような気になって、私はその花火をバケツにつける。
ジュッと音がした。

自分が恥ずかしい。

多分、私はさっきジョーが「一人でいい」と言ったとき、その一人が自分のような気がしてしまったんだ。

けれど、きっとそうじゃない。
ジョーの言う「好きな子」は、きっとまだ見ぬ誰かなのだ。

もしかしたら、アメリカにもういるのかもしれない。

「本が売れるのは有り難いけれど、僕の写真が出ただけで売れるというのは、ちょっとね」
「でも、『シークレットロマンス』は傑作だって、みんなもう分かってるから。映画を楽しんだり、本を人に借りただけで済ませたりしていた人が、この機会にやっぱり自分で買って、じっくり読んでみようと思ってくれたんだとしたら、素敵なことだと思うな」

私がそう言うと、花火は消えたのに、ヘーゼルの瞳がキラキラと輝いた。

「そうか……そうだったら、嬉しいな」
「それに、見た目がいいことは、誇っていいことだよ。ジョーが、きっちりトレーニングして、体を作った成果なんでしょ? 髪型や服装だって、小説家ジョー・ラザフォードのイメージを崩さないように、気をつけているんだよね?」
「どうしてそれを?」
「そんなの、見てれば分かるよ。私と初めて会ったときのジョーは、よれよれのTシャツで、ボサボサの髪をしていても、何とも思ってなかった。あの頃のジョーより、読者の夢を守ろうとしてくれている今のジョーの方が素敵だと思うな」
「僕が素敵?」
「とっても。ジョーの小説のヒーローみたいに」

恥ずかしさを笑いに混ぜて、私は新しい花火を手を伸ばす。

「……汐璃」
「うん?」

ジョーが改まった声を出す。
こちらを向くのが分かって、私も縁側の下にしゃがみ込みながら、手を止めた。

その瞬間を逃さず、私の右手はジョーの大きな手に捕らわれた。

「汐璃。キミは、8年前と少しも変わらないね。思いやりに溢れ、僕をいつだって励ましてくれる」
「そんな……」
「キミの優しさを受け取り続けてきた僕が言うことに、間違いはないよ。その上、キミは美しくなった。僕が想像していた何百倍も、キミはきれいだ。僕にとってのヒロインは、汐璃……キミだ」
「え……?」
「いつだって、キミだった。キミだけなんだ……」

そう言ってジョーは、私の右手を恭しく持ち上げ、指の先にほんの少し触れるキスを落とした。

わずかな熱が、さっき持った花火よりも熱い。
私の全身が熱くなる。

真っ赤になった私を嬉しそうに眺めたジョーは、私の手を取り、花火に火をつけた。

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