一途な小説家の初恋独占契約
「この本、読んでくれたの?」
「読んだよ」

畳に転がった本を取り上げ、ジョーはそれをパラパラとめくる。

「……僕が、この本の作者だって言わなくて……本当に怒らなかった?」
「怒ってないよ。驚いたけど……どこかで納得してた。不思議に思わなかったの。ジョーの手紙を読んでたから」

ジョーが手紙に書いてくれた詩や短編を、日本語に訳してジョーに送るのが楽しみだった。
ジョーから、そうするように頼まれていたからだ。

「ジョーの手紙は、ジョー・ラザフォードの作品にどこか似ているなって感じていたの。同じ心を持っているというか。
ジョーが、ジョー・ラザフォードに似ているのかと思っていたら、逆だったのね。
あ、でも、ジョーが作品を書くようになったのは、中学生の頃からなんだから、逆じゃないのかな」
「……キミに読んでほしくて書いてたんだ」
「うん。私も手紙が楽しみだった。あのね……私、手紙に書いてくれるジョーの作品が好きだったよ。
私が一番好きな作家は、ジョゼフ・早見・オリヴェイラだったの。日本の作家の誰よりも、世界の作家の誰と比べても、ジョーが好きだった」

胡坐で本を捲っていたジョーは、静かにその本を畳に置いた。
相変わらず、ミノムシの私を見て、苦しそうに目を細めた。

「……手紙だけじゃない。本も、全部。汐璃に読んでほしくて書いた」
「え……?」
「言ったろう? 僕のヒロインは、いつだってキミだった。僕の一番の読者もキミだし……キミに……」

ふつりとジョーは、黙ってしまった。
片手で顔を隠すようにし、辺りを見渡す。

ジョーのすぐ傍には、書棚があった。

険しかった表情が、緩む。

「汐璃の本?」
「うん。おばあちゃんのも少し混じってるけど、ほとんど私の」

自分の部屋として使っている洋間だけでは足らず、私の蔵書はこの部屋にも侵食していた。

興味深げに棚から本を抜き取るジョーを見上げながら、私はゴクリと唾を飲み込む。

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