一途な小説家の初恋独占契約
「汐璃がつけて」
「やり方が分からない」
「仕方ないな」

私の手ごとタイを引き寄せると、身を屈めてタイを首に回すよう言う。

「ジョー、早く用意しないと、時間が……」
「だから、汐璃ががんばって」

私の手まで巻きこむように触れながら、ジョーは器用にタイを結んだ。

「今度、覚えるまで教えてあげる」

笑い飛ばすことも叱りつけることもできず、頬を赤らめただけの私は、これもシルバーのウエストコートを取りに走る。

後ろから着せかけ、ボタンも留めてあげる。
もうこうなったら、自棄だ。

最後にブラックのドレッシーなジャケットを着せかけ、髪を整える。

そこには、ハリウッドスターも顔負けの美丈夫がいた。

「どうかな、汐璃。似合ってる?」

声も出せずに赤くなる私に、ジョーはへにょっと顔を顰めた。

「……おかしいかな。どうしよう……」

途端に忙しく瞳を動かす。

だから、私は正直に言うしかなかった。

「大丈夫よ、ジョー。とってもかっこいい……」
「本当っ?」

子どものように、パッと顔が華やぐ。
眩しいほどの笑顔だ。

「本当」

それにつられて、私も恥ずかしさより笑顔が表に出る。
こんなに大人っぽい男の人に面しながら、子どもを励ますような気持ちになるのが不思議だ。

「良かった」

途端に自信を取り戻したジョーは、胸を張る。

フッと真顔に戻って鏡を覗いたジョーは、ジョーの描き出すヒーロー顔負けの堂々とした姿だった。


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