一途な小説家の初恋独占契約



ステージに立つジョーと別れ、私は会場の隅に身を潜めた。

既に、マスコミ関係者が詰め掛けている。
想像以上の盛況だ。

ステージの全面には、カメラが立ち並び、その後ろには記者と思われる人たちが集まっている。
よくよく見れば、見知ったテレビレポーターや芸能記者もいた。

イベントのステージに立つのは、ジョーと主役の男女の吹き替えをした俳優と女優、それに司会者だ。
司会者の誘導に合わせて、ちょっとしたお喋りをして、マスコミからの質問に答えれば終わり。
せいぜい30分程度の会だと説明を受けている。

主役の二人は、スキャンダル一つない清廉潔白の若手俳優だった。
所属事務所としては、お手本にしたいほど王道を歩いている二人は、商品PRの立場からすると、マスコミを呼ぶにはネタとして弱い。

そこで招かれたのが、これまでほとんど姿を現さなかったベストセラー作家ジョー・ラザフォードだ。
本国アメリカでも、ほとんど取材に応じず、姿を現したのはつい最近、それもシルエットや横顔などの写真がいくつか流れ、女性とばかり思われていた彼が、実は男性だったと知られたばかりだった。

やがて、照明が変わり、司会者が挨拶を始めると、会場は一瞬静まり、出演者の登場と共にけたたましくシャッターが下ろされた。

爽やかな笑顔を振りまく主役の二人に続き、ジョーが現れる。

小柄な彼らより頭一つ分は優に高いジョーが悠々とステージを渡ると、フラッシュと共にマスコミにどよめきが広がった。

「おい、あれ誰だよ……?」
「今日は、吹き替えの俳優二人とアメリカ人の女流作家だって言ってなかったか?」
「あんなやつ、映画に出てたっけ?」

マスコミ関係者にも、まだジョーの正体は、広くは知られていなかったらしい。

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