一途な小説家の初恋独占契約
「……そして、今日この日のために、遥々アメリカからお越しくださったベストセラー作家、ジョー・ラザフォード先生です」

司会者が、主役の二人に続き、ジョーを紹介すると、益々騒がしくなった。

ジョーに向かって、盛んにフラッシュが焚かれる。
もはや、主役の二人を食ってしまう勢いだ。

ステージ下の熱狂は、我関せずといった風情で、ジョーは会場を見渡す。
視線が移るたびに、その方向から声なき感嘆が沸いた。
スターを見慣れているはずのマスコミでさえ、ジョーの姿は新鮮な驚きをもたらしたらしい。

ドレッシーなスーツに身を包み、言葉少なながらも誠実に答えようとするジョーは、まさに彼の描くヒーロー像そのもので、ジョーの作品を知っているいないに関わらず、会場中の人が惹きつけられていた。

私は、それに圧倒されていた。
間違いなく、新たなスターが、誕生した瞬間だった。

ジョーは、たくさんのカメラにも、大勢の視線にも、場慣れした二人の人気俳優にも負けず、静かな笑みを湛え、言葉少なながら滑らかな日本語を紡ぎ出す。
少し低めの声が、微かに笑いを含んでかすれる度に、会場にいる女性たちが黄色い声を呑み込んだ。

美男は見慣れているはずの女優や司会者までがはしゃぎ、露骨に媚びる。
一人取り残された若手俳優も、ジョーの存在感に圧倒されたように、憧憬の眼差しを送っている。

私のすぐ前にいる女性たちも、思わずといった調子で口元に手を当て、溜め息をついていた。

「ジョー・ラザフォードが、あんなにナイスガイだなんて聞いてなかったわぁ」

その声に顔を覗き見てみれば、テレビで見たことのあるレポーターだった。
頬に手を当て、首を振っている。

その様子に、隣にいた女性が小さく笑う。
こちらも、見覚えのある芸能記者だ。
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