一途な小説家の初恋独占契約
「イケメンでしょ。日本人は、昨日SNSで拡散された写真で知った人が多かったみたいですけどね。ハリウッドデビューしないかって話もあるらしいですよ」
「納得。世間が放っておくわけないわ」
「それで、あんなに情熱的な小説を書いちゃうんですもんね」
「どうして、あんなに女性心理がわかるのかしら」
「そりゃあ、たくさん女性を知ってるからでしょう? それしかないじゃないですか」
「そうよねぇ、相当モテるんだろうなぁ」
「すっごい美女と、すっごい経験してるんでしょうね……」
「やだぁ」

イベント中は、カメラマンが前列を陣取り、イベント終了後の質問時には入れ替えでレポーターが前に行くという暗黙のルールがあるらしい。

二人は、お開きを察知して、そそくさとステージの前に進んでいった。

たくさんのカメラを向けられていたジョーは、今度はたくさんのマイクを向けられている。

「ジョー・ラザフォード先生。なぜ、日本で、このタイミングで公けの場に?」
「アメリカでも、取材は受けましたよ。それに、この日本も、もう一つの祖国です。母が、日本人なので」

嘘ではないけれど、質問に真正面から答えてるとも言いがたい。
アメリカで出した写真に、正面からのものはなかったと聞いているし、こうしたイベントにも出ていないからだ。

質問した人は、深く問い掛けることはなく、次の質問へと移った。

次々と飛び交う質問に、ジョーは臆することなく答えていく。
自分に集中しがちな質問を適度に俳優の二人に振り、面倒な質問はジョークを交えて交わす。

……本当に、いつの間にあんなことができるようになったんだろう。

それを言うなら、全部そうだ。

いつのまに、あんなに素敵な小説を書くようになって、こんなに素敵な大人になって。

全部私の知らないうちに起こったみたいだ。
ジョーとはずっと、以前と変わらず手紙をやり取りしていたのに、私は何も知らなかった。
< 85 / 158 >

この作品をシェア

pagetop