一途な小説家の初恋独占契約
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一日の仕事を終えて家に帰った私が一番にすることは、郵便ポストのチェック。
「……今日も、来てないか」
チラシやDMの間に挟まっていないか何度も確認して、溜め息をついた。
部屋に入って、机の一番下の引き出しを開ける。
そこにびっしりと入っているのは、文通相手から届いた手紙だ。
数えたことはないけど、3桁は優にある。
一番新しい手紙を開く。
「Dear 汐璃」
日本語と英語の混じったお決まりの書き出しに、不恰好な日本語で近況が続く。
日本語ではうまく伝えられないのか、英語で補足が混じりつつも、どうにか便箋2枚分を日本語で埋めた次の3枚目。
それ以降、文体も何もかもがガラッと変わる。
流麗な筆記体で書かれた英字が、便箋をびっしりと覆い尽くされている。
3枚目から書かれているものは、フィクションだ。
詩、あるいは掌編。
その時々で気まぐれに、たった数行のこともあれば、何枚も便箋を費やしたあげく、続編が届くこともある。
そのほとんどは、胸を熱くさせるような恋愛が主軸になっていて、読むたびに心が切なく震えるのだ。
もう何十回目かというのに、今日も読み終える頃には瞳を潤ませた私は、分厚い便箋を胸に抱いて、熱い溜め息をついた。
私が世界で一番好きな作家。
それは、私にだけに届く秘密の作品を書いてくれる、文通相手だった。