一途な小説家の初恋独占契約
「私、ジョーと一緒にいていいのかな? ジョーが来てくれて、本当に嬉しかった。うちに泊まるのは、びっくりしたけど、全然嫌じゃないの。嫌だったら、いくら仕事のことがあっても、断ってるよ。ジョーがいたいなら、いくらでもいてくれていい。
でも……ジョーは、世界的なベストセラー作家だよ? これからもっと注目されると思う。それなのに、私と一緒にいて平気? 仕事も、もっとジョーの役に立てる人が社内にいると思うし」
「汐璃以外いない」

上から私を抱き寄せていたジョーは、私を持ち上げるようにして頬と頬が擦り合うように、抱きなおした。

「……僕が恋を教えてあげたいのは、キミしかいないんだ。そう言ったろう……?」
「え……」
「まだ、僕に恋してないの……?」

耳元でそう囁くと、ジョーはゆっくりと顔を上げた。

怯えたような視線が、私と目が合った瞬間、ふわりと解ける。
ヘーゼル瞳が、朝日に甘く蕩けた。

「ジョー……」

薄く開いた私の唇に、ジョーの視線が落ちる。

ゆっくりとジョーの顔が傾いていき、もう少しで私に届くというとき……。

目覚まし時計が、けたたましく鳴り響いた。

「あ……っ!」

慌ててジョーの拘束から抜け出ると、私はそれを止めた。

急に動いたせいでなく、心臓がドキドキうるさい。

背を向けたまま固まっている私を、背中からジョーは緩く抱き締めた。

「恋人同士の朝の時間を教えてあげたかったのに……残念」

大きなリップ音を頭の上に残して、去っていく。

「朝ごはん作ってあるから、早くおいで」
「……うん」

コクコク頷きながらも、私は最後までジョーを振り返ることができなかった。

早く用意をしなくちゃと思うのに、ドアが閉まってもしばらくそのまま何もできなかった。

机の上には、数百枚の原稿が載っている。
部屋のカーテンを開けてくれたジョーは、これを見たはずだ。

眠れない夜の時間、私は赤ペンを片手にこの原稿を見つめて過ごした。

……ジョーの最新刊を、私が翻訳した原稿だった。
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