キングの餌食になりまして。
*
待っていてと言われて、大人しく待つわけがない。
「帰ろう……いや、逃げよう」
いてもたってもいられず部屋を出てエレベーターのボタンを押す。到着した籠に誰かが乗っていた。
黒髪をきっちりと七三に分けた、スタイリッシュな銀フレームの眼鏡をかけた男だ。
「………支配人!」
わけのわからない事態に巻き込まれたものだから、支配人を見て心の底から安心できた。
「お疲れ様です。どうぞ」
扉を開けて待ってくれている、支配人。
あたしは足がすくんでエレベーターに乗ることができない。
「支配人……あたし……」
支配人がエレベーターから降りてくる。エレベーターの扉は閉まり、誰も乗せずに降りていった。
「あたし、ここ、辞めることになりました」
「……え?」
「せっかく雇っていただいたのに。本当に、すみません」