キングの餌食になりまして。



 *



 待っていてと言われて、大人しく待つわけがない。


「帰ろう……いや、逃げよう」


 いてもたってもいられず部屋を出てエレベーターのボタンを押す。到着した籠に誰かが乗っていた。

 黒髪をきっちりと七三に分けた、スタイリッシュな銀フレームの眼鏡をかけた男だ。


「………支配人!」


 わけのわからない事態に巻き込まれたものだから、支配人を見て心の底から安心できた。


「お疲れ様です。どうぞ」


 扉を開けて待ってくれている、支配人。

 あたしは足がすくんでエレベーターに乗ることができない。


「支配人……あたし……」


 支配人がエレベーターから降りてくる。エレベーターの扉は閉まり、誰も乗せずに降りていった。


「あたし、ここ、辞めることになりました」

「……え?」

「せっかく雇っていただいたのに。本当に、すみません」

< 33 / 112 >

この作品をシェア

pagetop