キングの餌食になりまして。



「辞めるって……一体なにがあったんです?」

「それは……あの……ごめんなさい」


 なにから話せばいいものやら。
 話していいかもわからない。


「嫌なことでもありましたか」


 あたしを見つめる支配人を見て胸がギュッと痛む。


「こんなにすぐに辞めるなら……他の人雇ったほうが良かったですよね。仕事を教えてもらって、できるようになって。これからというときに……。ご迷惑をおかけして、本当にすみません」


 頭をさげるあたしに「顔をあげてください」という支配人は迷惑なんて素振りをみせず、むしろ心配してくれている様子で。


「私でよければいくらでも話を聞きますよ」


 こんなにも、優しい。


 支配人と明日から会うことはないと思うと、切ないような名残惜しいような気持ちになる。

 誰かとの別れをここまで寂しいと感じたのは初めて。


(もしかしたらあたし、支配人のことが……)


「支配人……」


 ダメだ。甘えたら、迷惑をかけてしまう。

 速やかに立ち去ろう。


「制服は洗って持ってきます。ロッカーの私物は今日ぜんぶ持って帰りま……」


 と、話している途中で支配人の視線があたしの腕にかかっているスーツに落とされる。


「その上着」

「あ。えっと。これは……その……」

「京極さんのものですね?」
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