キングの餌食になりまして。



 黙っていると、支配人が静かに問いかけてきた。


「揉めましたか」

「えっ……も、揉まれ……!?」

「……?」

「…………」

「いえ、揉め事でもあったのかなと。そう思ったのですが……」


 あたしどんな聞き間違いしてんの……!


「……実は。はい。ちょっと」

「それで槇さんがクビに?」

「や……まあ。そんな感じで」


 どうしてわかっちゃうんだろう。


「……“また”ですか」


――え?


「支配人。またって……?」

「あっ……いえ。なんでもありません。とりあえず、ここじゃ人の目もありますので。どこかに――」


 なんでもないって顔つきには見えない。


「あの、」


 支配人に近づこうとした、そのとき。

 パサッとなにかが床に落ちる音がした。


(……?)


 どうやら、キングのスーツのポケットからそれは落ちたらしい。

 それを拾い上げたのは、支配人。


「カードキー……ですね。このホテルの」

「あ」


 さっきまでいた部屋の鍵だ。


 ……キングはこの部屋で待てといった。


「……支配人。『ここ』使いませんか」

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